AIソフトの開発販売を行っているベンチャー企業様から、顧客企業がタイの工場で当社ソフト製品の利用を予定しており、タイでの利用にあたり知財面でのリスクおよびその対応についてお聞きしたいとの質問を頂きました。

 以下は、上記質問に対して弊所から差し上げたメールでの回答を編集したものです。

(保護の態様)
1.タイでプログラムソフトは保護されるか。

 タイはベルヌ条約に加盟しており、外国法人である日本法人の著作物(コンピュータソフト)もタイ著作権によって保護されます。これが原則です。ではどのようにしたら最も効果的に保護されるか、となると、実際の保護態様を現地に確認する必要があります。

.特許による保護について。

 タイでは特許審査能力が十分でないため、外国での特許審査結果を出さないと審査は進みません。日本で特許されているとPPHという審査促進制度で早期に審査してもらうことは可能です。国際出願の結果(調査報告)に基づくPPHはタイは認めていませんので、まず日本で特許にする必要があります。

 3.商標はソフトウェアのダウンロードやパッケージ的な販売でないと、あまり有用だとは思われません。必要ならば商標権をタイで取得する必要がありますが、英語の表示では同一類似のものが無いか、調査が必要です。日本語なら単なる図形のようなものですから比較的容易に登録されると思います。


(著作権による保護について)
  条約上は、一の締約国の国民が創作した著作権は他の締約国で当該締約国の内国民と同一の条件で保護すること(つまり内外人を差別してはいけない)と、著作権の発生を無方式主義(登録は必要ない)とすることが締約国の主な義務となっています。

  登録は著作権の発生要件ではありませんが、日本ではSOFTICという登録機関があり、創作者や創作日を登録することによって、将来の訴訟の際の証拠として使用できます。また、著作権を譲渡した際にSOFTICへ登録すると第三者対抗要件が生じます(その後に譲渡を受けたものに対抗できる、つまり二重譲渡を防止できる)。

  タイでも登録制度はあります。その登録は日本の特許庁に当たるDIPに行います。弊所の手数料を含めた登録の総費用は20万円程度です。その内訳は以下の通りです。

  ・現地費用:約800USDです。

     提出書類

     a.ソースコードの最初の5ページと最後の5ページ

     b.委任状(公証が必要)

     c.著作権者であることの証明(会社が著作権者なので代表者がサインするだけ)

     d.会社登記簿(公証が必要)

       ・弊所手数料は7万円
       ・公証人費用(約2万円)
       ・会社登記簿英訳費用等(約2万円)

 
 タイでのプログラム登録の大きなメリットは、
登録をすることによってECD(経済警察)が動き、刑事手続き(手入れや罰則等)ができるということです(平成24年3月文化庁発行の「タイにおける著作権侵害対策ハンドブック」)。このような刑事的脅しはタイでは他の知的財産権でも一般的に有効です。

  ここで、日本のSOFTICに登録しておくことがタイでの著作権保護に有用か否かという問題があります。結論的には、一の締約国での登録がそのまま他の締約国で効果を有するものではないと思われます。例えば、著作権を譲渡した際にSOFTICへ登録すると第三者対抗要件が生じますが(その後に譲渡を受けたものに対抗できる、つまり二重譲渡が防止できる)これがそのままタイでもそのような効果があるのかは疑問です。タイでも譲渡の登録をする必要があるでしょう。

 ただ、日本のSOFTICに登録しておくと、それが何らかの証拠として使えることはあるかもしれません。ただし、例えば創作日に関しての登録は創作から6か月以内に行う必要がありますから、それを逃すと、プログラム中に創作者固有の情報を『埋め込む』方法や、タイトル画面に直接的に著作者を表示するとか(著作権マーク)、隠しコマンドを埋め込む等の証拠方法を使うということになります。

 つまり、SOFTICでの登録が、タイの裁判上の証拠として使うことができることはあるにしても、タイでの登録はタイ国内で独自の効力を有するので、やはりタイでの登録はした方が良いということになります。